絵画における額縁のようなもので、どんなにその絵が素晴らしくても、額縁が貧弱だったり、マッチしていなければ絵画の魅力を低下させるのと同じです。
また、歯肉のパピーラ(歯間乳頭)の形が揃っていることで、歯全体が美しく見えます。
不思議なことに若いときには、多少歯が前後にでこぼこしていて不揃いでも、歯の色が揃っていなくてもそれほど目立ちません。
顔全体の表情がよく動くので歯にまで意識がいかないのかもしれません。
ところが年を取ってくると、妙に口元が目に付くようになります。
肌がくすんだり、口元にシワが出るせいかもしれませんが、とにかく歯と歯肉が目に付くようになります。
だからこそ、審美的アプローチが求められるのです。
複数本を要するインプラント治療は中高年以上の方になされることが多いので、機能だけでなく歯肉まで含めたトータル的な治療が、美しい口もとを作る治療が実施されるようになっているわけです。
ここまで進んだ驚異のインプラント治療インプラント治療の基本最近は多くの歯科クリニックでインプラント治療が受けられるようになっていますが、なんとなく不安を感じていて決心がつかない方も多いようです。
本章では実際の患者さんの症例を挙げながら、基本的なインプラント治療から最先端の技術までを解説します。
(症例一)五二歳の女性です。
歯周病で右下の奥歯がぐらぐらしてきたので抜歯しました。
歯周病治療の後で、インプラントを入れるかどうかで迷っています。
どれくらいの期間がかかりますか?ここでは、歯が一本欠損した場合のインプラント治療の基本的な方法について解説します。
この症例では歯を抜いたので、歯の根は失われています。
インプラントはチタンでできたフィクスチャーと呼ばれる歯根の代わりのインプラント体を歯槽骨にしっかり固定して、その上に歯を取り付ける治療です。
この方の場合は、歯周病といってもまだ骨吸収が大きく広がっておらず、患者の骨をそのまま利用しました。
チタンのフィクスチャーを歯槽骨に固定するために、局所麻酔をして歯肉を切開し、骨が見えるようにします。
骨が露出したところで、フィクスチャーを埋入するための穴をあけるために、一ミリ、二ミリというように大きさの違う五種類のドリルを使います。
最初に使うのは丸い棒のような形をしたドリルで、インプラントを塩入する場所に日印をつけるように小さな穴をあけます。
その後、二ミリのドリルで、どれくらいの深さでどの方向にあけていくかを模索しながら穴をあけていきます。
噛んだときの荷重を極力減らすために、どの方向に穴をあけると噛めるかを調べながら行う、気を遣う作業です。
最終的に三ミリのドリルに替えて、正確にインプラント埋人の穴を完成させます。
その後フィクスチャーを入れますが、先端にセルフタップという刃がついているので、骨を削りながら穴の中を適切な深さまで埋入します。
フィクスチャーの直径は通常三・七五ミリで、ドリルの口径は三ミリと少し小さいのですが、この差の〇・七五ミリがあるために、ネジ山をしっかり固定することができます。
フィクスチャーの上部にあるフレンジを皮質骨にしっかりと固定させ埋入完了です。
最後にフィクスチャーの上面にあるアバットメントを装着するねじ穴にカバースクリューでふたをして、歯肉を縫い合わせておきます。
この閉じられた歯肉の中でチタンが骨とくっつくオッセオインテグレーションが行われます。
フィクスチャーを埋大した状態で、上顎ならば六か月、下顎なら四か月そのまま放置します。
歯が抜けた状態では見栄えが悪いので、骨やインプラント体の負担にならないような仮歯を欠損部に装着します。
所定の期間が経過したところで、歯肉に小さな穴を開け、覆っていたカバースクリューを外し、歯肉を貫通させるようにヒーリングアバットメントという器具を取り付けます。
二~三週間後酸化アルミナやジルコニアで作った半透明のカスタムメイドのものと、チタンの既製のアバットメントがあり、歯に取り付け土台とします。
その後、埋大したフィクスチャーが、立体的に見てどこの位置にあるかを確認するために印象をとり、隣の歯とのバランスや、歯肉の形などを見ながら人工歯を作るための模型を制作します。
模型は患者さんの歯肉の形まで克明に作ってあり、歯だけではなく歯肉の形もきれいに整えることで、審美的にも美しく仕上がるように考えて作ります。
この模型を原型にして、上部構造(歯の部分)を作ります。
模型を元に制作した上部構造の仮歯を入れ、仮歯の根に合わせて歯肉を理想の形に整えたのちに、正式な人工歯をアバットメントに連結しインプラント治療が完成します。
このときにはオッセオインテグレーションがある程度できているので、安心して自分の歯と同じように噛むことができます。
インプラント治療は埋人から二年間は経過を見る必要があります。
この間に脱落などがなければ、その後は長期で安定して使い続けることができます。
もちろん、細菌感染や歯周病予防のために定期的に歯や歯肉のクリーニングなどのメンテナンスを行うことが必要で、これをしっかり継続して実施することで歯を守ることができるのです。
三本歯が抜けた場合のインプラント治療日本にインプラント治療が導入された当初は、歯の根を作るという考えから一本の歯に対して一本のインプラントという形で治療していました。
しかし現在は、できるだけインプラントを少なくして上部構造を支えるほうが歯肉や骨に対する影響が少ないということで、インプラントの本数を減らす方向で技術が進んでいます。
(症例二)五〇代の主婦です。
下の左側の奥歯を子どもの頃にブリッジにしました。
すでに三〇年近く使っている上に歯がだめになり、ブリッジが金属なので笑ったときに見えて気になります。
この際白い歯を三本入れたいと思っていますが、その場合インプラントも三本入れる必要があるのでしょうか?人工歯が三本あっても、根の部分であるフィクスチャーは三本である必要はありません。
二本でも十分に支えることができます。
天然歯は歯と根が同一なので、一つの歯に対して根は一つ(二~三つに分かれている場合もありますが)です。
しかしインプラント治療では、できるだけインプラントの埋人数を減らすことで、しっかりと歯を支えながら骨の吸収を防ぐという考え方が主流になっています。
たとえば、ブローネマルク博士の研究でも、まったく歯がない場合にすべての義歯を支えるフィクスチャーの数は、四本ないし六本でも成績に大差がないと報告されています。
世界最初の症例はすべての義歯を最終的には五本で支え、それが四〇年以上にわたって保てたことでも証明されています。
つまり、複数の歯が抜けても、使用するインプラント体の本数は歯の数よりも少なくてかまわないのです。
ですから、この方の場合のように三本歯を失っている場合でも、フィクスチャーは二本で十分に支えられるわけです。
さすがに一本では、安定が悪くオッセオインテグレーションが獲得できないことも考えられるので、二本が適当であると思います。
治療方法は、歯を失っている左奥の歯茎を切開し、めくりあげて骨を露出させたところで、フィクスチャーを埋入する場所に印をつけます。
その後は一本の場合と同じ要領で、口径二ミリの長いドリルで、穴をあける方向と深さを決め、三ミリと大きくしていくことで穴をあけてフィクスチャーを埋入します。
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